大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和27年(オ)973号 判決 1954年7月27日

東京都中央区銀座西六丁目三番地八

上告人

独研産業株式会社

右代表者代表取締役

庄野義信

同所同番地

上告人

独研株式会社

右代表者代表取締役

庄野義信

右両名訴訟代理人弁護士

渡辺一男

同都世田谷区弦巻町三丁目五九七番地

被上告人

武蔵造機株式会社

右代表者代表取締役

山根良平

右当事者間の仮処分異議事件について、東京高等裁判所が昭和二七年九月二五日言渡した判決に対し、上告人等から一部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人等の負担とする。

理由

上告人訴訟代理人の上告理由は末尾添附別紙記載のとおりであつてこれに対する当裁判所の判断は次ぎの如くである。

被上告会社が特別経理会社であるということは一の法律関係には相違ないが、かかる関係は係争関係の前提たる場合当事者間争なしとして確定しても差支なきものといわなければならない、例えば或物件が当事者の一方の所有に属することを前提とする事案においてその物件が該当事者の所有に属する旨の原告の主張に対し被告がこれを争わないときは、右は被告の争わざる処として確定しても差支えないと同様である。又本件記録にあらわれた弁論全体の趣旨に徴すれば本件物件が昭和二一年八月一一日午前零時現在被上告会社の財産に属して居たものであることは当事者間争なき処であつたこと明であり、原審もこれを前提としての判旨であること判文上明瞭であるから論旨第一点は採用できない。論旨第二点所論の証人は唯一の証拠とは見られないのみならず、記録によれば所論証人申請については原審は採否の決定をしなかつたのであるが、そのまま弁論を終結するにつき当事者双方何等異議を述べた形跡なく、しかも当事者双方「他に主張立証はない」と述べたこと明である、かかる場合は右証人の申請は抛棄されたものと認むべきである(昭和二七年一一月二〇日同二四年(オ)第一三八号事件第一小法廷判決参照)から右論旨も採用に値しない。

よつて民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第八九条に従つて裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

昭和二七年(オ)第九七三号

上告人 独研産業株式会社

外一名

被上告人 武蔵造機株式会社

上告代理人弁護士渡辺一男の上告理由

一、原判決には判決に理由を付さなかつた違法がある。

(一) 原判決は被上告人が特別経理会社であることを前提として、本件売買契約が無効であるという判断をしているが、被上告人が特別経理会社であること自体については、ただ「被控訴会社(被上告人)が特別経理会社であることは控訴人ら(上告人ら)の明らかに争わないところである(原判決書第五丁表一行目から二行目まで)」と説明しているにすぎない。しかし「特別経理会社」とは、いわば、法律概念にすぎないのであつて、果して或会社が「特別経理会社」に属するかどおかはその会社が会社経理応急措置法第一条第一項各号にあたるかどおかの事実判断によつて決しなければならないことは、右の法条自体から明瞭である。従つて、また或会社が「特別経理会社」であるかどおかを自白または推定自白によつて決する場合にはそれら自白または推定自白の対象となるものはその会社に右法条の各号に該当する事実があるかどおかの点である。或会社が特別経理会社であるかどおかといういわば法律概念の存否自体が自白または推定自白の対象となるのでもなければまたそれらの対象となりうるわけもない。もし当事者が一定の法律関係の存在のための要件として或会社が「特別経理会社」であることを主張した場合には裁判所はよろしく、その会社が右法条の各号のいづれにあたるかを釈明して後、右各号に該当する具体的事実の存在を自白または推定自白の対象とするか、またはその存否について証拠調をしなければならないわけである。原判決は上述のとおり、被上告人が特別経理会社であること自体を推定自白の対象とし、これを前提として、売買契約が無効であると論断しているのであるから、原判決には、この点において判決の基礎たる事実を確定しなかつた違法、いいかえれば、判決に理由を付さなかつた違法があるものといわなければならない。

(二) 会社経理応急措置法第二十二条はその第一項において「特別経理会社は、会社財産及び指定時後取得した旧勘定に所属する財産を譲渡し……(中略)……ようとするときには(中略)……特別管理人……(中略)……の承認を受けなければならない。」と定め、且その第三項で「第一項の規定によつて特別管理人の承認を受けないで、会社財産及び指定時後取得した旧勘定に所属する財産を処分した場合においては、その処分は、これを無効とする。……(後略)……」と規定しているが、ここにいう「会社財産」とは、同法第七条第二項によつて定義ずけられている法律概念であつて、すなわち特別経理会社が同法第五条によつて作成した昭和二十一年八月十一日午前零時現在における財産目録に記載した「動産、不動産、債権その他の財産」を指すものであることは、同法第七条、第八条等と、第二十二条との対照上、あきらかである。つまり、特別経理会社の財産処分行為が同法第二十二条第三項によつて、無効となるためには、その処分行為の目的物件が、右の「会社財産」の範囲に属するか、または、昭和二十一年八月十一日午前零時後に会社の取得した旧勘定に属する財産にあたるかのいずれかでなければならないから、裁判所が特別経理会社の財産処分行為を右の規定によつて無効と断ずる場合には、先づ以て、その処分行為の目的となつた財産が右のいづれに該当するかどおかを自白または証拠によつて具体的に確定しなければならないわけである。ところが、原判決は、本件売買契約はその当事者である被上告人が特別経理会社であるにかかわらず、契約締結について特別管理人の承認のあつたことをみとめるに足る疏明がないから無効であると結論するにあつて、売買契約の目的物件についてはただ漫然会社財産というだけで、それらが上述のいずれかに該当するかについては全然具体的な判断を与えていない。(昭和二十一年八月十一日午前零時後に特別経理会社が取得した新勘定に属する財産の処分については、同法第二十二条の適用をみないものであることはその規定自体によつてあきらかであるのに、原判決が、むしろ逆に「本件の物件が被控訴人(被上告人)の新勘定に属する資産の全部であるか一部に過ぎないかに関係がなく、被控訴人がこれを処分するについては……(中略)……特別管理人の承認を受けることを要し「原判決書第五丁表第三行目から第六行目まで」」と記載しているところからみれば、原判決は同法第二十二条第一項、第三項の処分制限の対象についての判断をあきらかに過つているようにも考えられる)。だから、原判決はこの点においても法令適用の基礎たる事実を確定することなく漫然売買契約の効力を判断した違法、いいかえれば、判決に理由を付さなかつた違法があるものといわざるをえない。

二、仮に上告理由一、(一)(二)がすべて理由のない場合においても原判決には更に審理不尽の違法がある。すなわち、原裁判所は本件売買契約が無効であることの理由として、特別経理会社である被上告人の特別管理人の承認をえたことの疏明がなかつたことをかかげている。しかし、被上告人が、売買契約締結の際、特別管理人の承認をえたことについて、上告人らは、差当つて他になにらの疏明方法がなかつたため、昭和二十七年四月十二日の原審口頭弁論期日にこの点を疏明するため、唯一の疏明方法である上告人両会社の代表取締役庄野義信本人の尋問を申出たにかかわらず、原裁判所はこの申出を採用することなく上述のとおり判断したのであるから、原判決にば、その基礎たる訴訟手続において、重要な争点に関する唯一の疏明方法を採用せず十分審理をつくさないで判決をした違法があるわけである。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例